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大人も子どもも、視覚障がいがある人も、ない人もみんな一緒に。
「触覚遊び」で感じる、共生社会への第一歩。
パルシステム共済連の「ささえあい基金」では、「互いに支え合える地域社会づくりに寄与すること」を目指し、地域の市民団体やNPO法人をサポートしてきました。
支援団体のひとつ、ユニバーサル絵本ライブラリーUniLeaf(ユニリーフ)は点字で本文が書かれた透明シートを挟み込んだ「ユニバーサル絵本」の製作・無償で貸し出しを行う団体です。市販の本を一度ばらして透明シートに点字を打ち込み、再製本。点字も絵本も楽しめるユニバーサル絵本は、視覚に障がいのある子どもと障がいのない子どもがいっしょに楽しめます。同じ絵本を使って感動を分かち合うことで、誰もが尊重され共に生きていく社会の実現を目指し、2008年に活動を開始しました。
一冊一冊ていねいに製作された絵本は今や1300冊にのぼるほど。ユニバーサル絵本はボランティアスタッフが子どもの点字習熟度や学習レベルを考慮して、毎月選書しています。そのかたわら、「多感覚で遊ぶイベント」などで取り組みの発信もしています。
2024年9月鎌倉にて、パルシステム共済連は組合員と助成団体との交流企画として「触感で遊ぶ」ワークショップを開催。ユニリーフ代表の大下利栄子さんをはじめ、ボランティアスタッフにも協力いただきました。
「見ないで“触る”とはどういうことか、大変さだけでなく触覚のおもしろさも感じてほしい。見えないと何が必要で、どんなサポートが助かるのか、自分自身で体験してもらえたら」と、大下さん。
視界がない中でこそ研ぎ澄まされる感覚
ワークショップには予定を大きく上回る応募があり、午前の部、午後の部合わせて合計20組、45名が参加。中には視覚障がいのある方や、小学生の子どもと一緒に家族で参加した方、遠方から訪れたという方も。
「携帯を見ることが増えている今、目を使えば使うほど、触覚を使わなくなった実感があるのではないでしょうか。今日はぜひ指を使って、触覚を楽しんでほしいです。」
大下さんのあいさつ後、早速アイマスクを着けて、最初のプログラム「見ないで粘土で作ってみよう」がスタート。アイマスクをつけたまま順番に模型を触り、手元の粘土で形を再現します。模型は各テーブルにひとつだけ。視界のない状態では模型がどこにあるのか、誰かが触っているのかもわからず、模型を触るだけでも参加者同士の声かけが欠かせません。大人も子どもも声をかけ合いながら、完成を目指します。
アイマスクを外して模型の実物を見ると「意外とできた」「全然違う」……など反応もさまざま。出来上がりはそれぞれですが、模型と粘土を見比べて写真を撮るなど盛り上がりのなかで、最初のプログラムが終了しました。
見えないからこそ“工夫”や“声かけ”が大切
次のプログラムは「タッチマッチカードあそび」。
ふたり一組のペアになり、でこぼことした立体的な模様のついたカードの触り心地と口頭で伝えた特徴だけを頼りに、ペアの相手に選んだカードを当ててもらうゲームです。
開始直後、小学生のペアから「じゃんけんができなくて順番が決められない!」の声。視界が制限された状態では手が見えず、普段当たり前にやっているじゃんけんができないことに戸惑います。しかし、すぐに子どもたち自ら「自分が何を出したか言えばいいよ」と気が付き、見えない状況に柔軟に対応しながらゲームに挑みました。
たった6個の点で、150か国・地域の言語が表せる
最後のプログラム「点字スペース探し」の前には、大下さんから「点字1文字の組み合わせはたったの64パターン。これだけで文字や記号を表します」と解説がありました。64パターンを駆使すれば、6個の点で150もの国・地域の言語や、数式、楽譜、化学式すらも表せると聞き、驚愕の声を上げるみなさんに大下さんは続けます。「文字のある言語には点字があります。点字ができたことで、目が不自由な人でも働いたり、勉強できるようになったのです。偉大な発明なんですよ」
解説の後は例文でスペースを探す練習をして、いざ本番スタート。実際にユニリーフが製作したユニバーサル絵本を用いて、指先で点字をなぞります。ほんの数行の文章ですが、指がずれて2行目に触れてしまい戸惑う方も。視界に頼らず、指先の感覚だけで慣れない点字をまっすぐなぞるのは至難の業です。
ゲームの後にはプログラムで使用した絵本を、参加者が読み聞かせてくれました。普段からユニバーサル絵本を利用しているというふたりは、すらすらと点字をなぞり、目の見える人と変わりないスピードで読み上げます。点字の上級者になると目で文字を追うよりもずっと早く読めるのだとか。驚いていた参加者の皆さんも、音読が終わると思わず拍手を送ります。
誰もが尊重され、共に生きる社会へ ~“さわる模型”の試み~
すべてのプログラム終了後、大下さんは「盲学校においてあるのは点字だけの絵本。でも、ユニバーサル絵本は視覚障がいの有無にかかわらず一緒に読むことができます。建長寺の模型は絵本の立体版なんです」と話しました。その手には建長寺の“さわる”模型製作時の樹脂模型が。
2024年4月、本ワークショップの開催地、鎌倉の建長寺に“さわる”模型が設置されました。視覚障がいのある人、ない人が「共に生きる社会」を目指すにあたって、ユニバーサル絵本の製作・普及に留まらずに、見えなくても旅の感動を共有するため、大下さんが主導となって製作されたものです。
- ※「ささえあい基金」は製作費用の一部を助成しています。
「ユニリーフの活動は『喜びや発見を分かち合う友人に』ということを切に願ってやっています。目が見えないと、旅行に行っても建造物の一部を触ることしかできず、全貌を理解するのは難しいです。そうなると、思い出が残らず悲しい思いをすることも。模型を通じて、建造物の美しさや精巧さを知り、一緒に思い出を共有してほしいです。」
ワークショップ終了後、楽しそうに建長寺の模型を触る兄妹に同伴された親御さんから感想を聞きました。
「普段はカメラで拡大したり、撮った写真を大きく表示して細かいところを見ています。見えれば建造物を一周して全体の大きさを感じることもできるけど、見えないとそれは難しいです。なので、こうして“さわる”模型で全体像を確認できるのはいいと思いました。」
大下さんは、ワークショップの開催に寄せて「触覚も使えば使うほどいろいろなことが分かるようになります。」と語りました。言葉では理解していても、日常ではなかなか実感できない「見えない」世界。今回のワークショップは触覚を用いた遊びでその一端に触れ、指で“見る”ことで分かる豊かな世界を感じさせるものでした。
触れるという行為で得られる情報は温度や硬さ、形だけにとどまらず、点字が示す文章や楽譜などにも発展します。日々、たくさんのものに触れる中で、全く同じ触感というのは多くありません。触覚への意識ひとつで、感じられることはぐっと増えるのです。それは視覚障がいのある人だけでなく、ない人にとっても大きな可能性を秘めています。そんな気づきこそが、「共に生きる社会」への第一歩となるのではないでしょうか。普段なにげなく触れているものの触感に注目してみると、思わぬ発見があるかもしれませんよ。
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